東京・六本木の国立新美術館「庵野秀明展」鑑賞レポート 『新世紀エヴァンゲリオン』から『シン・ゴジラ』、そして『シン・仮面ライダー』へと続くヒットメーカーの軌跡

今年の春に最終章『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズや特撮映画に新風を起こした『シン・ゴジラ』で総監督を務めるなど、アニメや映画を通じて数々のブームを生み出してきた庵野秀明氏。彼のこれまでの足跡を辿る世界初の展覧会「庵野秀明展」が10月1日から港区・六本木の国立新美術館・企画展示室1Eで始まりました。1500点以上の資料や映像を通じて庵野氏のこれまでとこれからを紹介している本展の見どころを、開幕前日の内覧会のレポートを交えて紹介します。

すべては「一台のミシン」から始まった

まずは庵野氏の略歴を簡単に紹介しましょう。昭和35年(1960)に山口県で生まれた庵野秀明(あんの・ひであき)氏は、高校生の頃に映像作品の制作に目覚め、大学在学中の昭和56年(1981)に参加した日本SF大会『DAICON Ⅲ』でオープニングアニメーションを手がけて一躍注目を集めました。

その後、テレビアニメ『超時空要塞マクロス』の制作に参加後、昭和59年(1984)に上京。宮崎駿監督の映画『風の谷のナウシカ』など数々の作品に携わった後にOVA『トップをねらえ!』で商業アニメ監督デビュー。そして平成7年(1995)放送開始のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を手がけ、2000年代に公開された『新劇場版』シリーズまで続く熱狂的なブームを巻き起こすことに。実写映画の制作も精力的に行い、平成28年(2016)公開の『シン・ゴジラ』の総監督などを務めています。

さて、その作品のインパクトの強さから「庵野秀明=“エヴァ”の人」という印象がある方も多いのでは。しかし実際に本展を訪れてみるとエヴァの展示は全体の4分の1程度の印象。その反面で、特に今の30代から40代であれば各時代で影響されてきたであろう庵野作品の世界が凝縮されていて、庵野秀明というクリエイターの過去・現在・未来が総覧できる展示構成になっています。

全5章で展開される展示の中で「第1章 原点、或いは呪縛」では、メカ好き、ロボット好きだった少年時代の庵野氏が熱中したアニメや特撮作品に関する資料や造形物が展示されています。そのうち、なぜか会場の最初には一台のミシンが…。

実は幼き日の庵野氏が機械(メカニズム)を身近に意識したのは、家で両親が動かしていた足踏みミシンがきっかけでした。ペダルの連動するギアやベルトの精密な動きは、庵野少年に大きな興味を与えたそう。このミシンは宇部の生家にあった実物。まさに本展のはじまりにふさわしい展示といえるでしょう。

そして広い空間には庵野少年の想像力を育んだ作品の懐かしいアイテムたちが大集合。なかには『仮面ライダー』や『ウルトラマン』のマスク、『機動戦士ガンダム』の原画なども展示されていて、特に庵野氏と同じ時代を生きてきた方にとっては“一粒で二度おいしい”ような機会になるはず。縦3m×横15mの巨大LEDスクリーンでは、庵野氏が愛した懐かしいアニメ・特撮のオープニングムービーが圧巻のスケールで映し出されています。

クリエイターへの立志、そしてプロの世界へ

「第2章 夢中、或いは我儘」では、絵を描き始めた少年時代から自主制作に燃えた大学時代、そしてプロの道に進むまでの道のりを知ることができます。まず初めに飾られているのは美術部だった中学時代に書かれた6点の油絵です。印象派を思わせる風景画や静物を描いたそれらはなかなかの腕前で、後につながる描写のこだわりへの萌芽を感じさせます。

そこからは大学時代にグループで制作した自主制作作品の展示が続きます。なかでも大きく紹介されている『DAICON FILM版 帰ってきたウルトラマン』では庵野氏自らがウルトラマンを熱演。特撮シーン用のミニチュアもとても精巧に作られていることに驚きつつ、かつてアマチュアで『ウルトラマン』を作った青年が後に『シン・ウルトラマン』の総監督を務めるとは何とも数奇な運命を感じてしまいます。一方で、途中の展示にはマンガの神様・手塚治虫と対面した時の貴重な写真も見られます。

なお、この後の展示も含めて各場面の完成映像の紹介もところどころで用意されているので、制作過程と完成図のビフォーアフターを見比べながら鑑賞することができます。

そして、いよいよプロの道へ。『超時空要塞マクロス』『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『風の谷のナウシカ』『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』など、エヴァ以前の庵野氏のキャリアを彩る有名作品の数々が登場。ここからは原画やセル、作品の裏側が分かる設定資料が大量に展示されています。

ここでは本当に一部しか紹介できませんが、たとえば『風の谷のナウシカ』の展示には、庵野氏が宮崎駿氏から任された「巨神兵」の原画用下書きが15枚並べてズラリと展示。

総監督を務めた『ふしぎの海のナディア』のシナリオメモには、直筆による細かな設定がびっしりと書き込まれています。どこも圧倒的な物量でひとつひとつの展示の前で足が止まってしまいます。

エヴァンゲリオン、シン・ゴジラ、そしてヱヴァンゲリヲンへ

NERV(ネルフ)の巨大ロゴが待つ「第3章 挑戦、或いは逃避」は、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の展示から始まります。

まずは初号機や零号機のもとになったと思しき機体のデザインが生まれていった過程や、シンジ、ミサト、レイ、アスカなど主要キャラクターの設定資料の紹介があり、複雑に絡み合った人間関係を庵野氏が直筆で説明した初期の相関図なども見られます。

その他にも地球を襲う使徒、作中に幾度と登場する中央作戦司令室、シンジが住むミサトのマンション、物語のキーアイテムである携帯オーディオなどの設定が見られ、ロボットアニメに革新を与えたエヴァの世界観が綿密に作られていったことが分かる資料が満載。細かく書き込まれた資料から作中では語られない舞台やキャラクターの背景を探る絵解き的な楽しみも潜んでいます。

ここから『キューティーハニー』や『巨神兵東京に現る』、そして『シン・ゴジラ』など実写作品の展示を経て、再びエヴァの世界へ。2000年代に公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズと、その最終章である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の展示に続きます。

このゾーンに一歩入ると、きっと誰もがアッと息を飲むはず。なぜなら、ここでは新劇場版に登場する「第3村」の大型ミニチュアセットが見られるのです。これは、映画の画面を設計するために作成された資料素材のひとつ。映画の情景が蘇ってくる精巧なセットは本展のハイライトのひとつといえるでしょう。

ここにも新劇場版に登場するDSSチョーカーやヴンダーなど、重要なものたちの貴重な設定資料が盛りだくさん。庵野氏の妻で漫画家の安野モヨコ氏が描いた、赤ちゃんのキャラクターデザインなども見られます。全体の展示を通じて文章や写真では迫りきれない生の感動と発見は、ぜひ現地で体験してみてください。

終盤の「第4章 憧憬、そして再生」と「第5章 感謝、そして報恩」には、今度公開を控える映画『シン・仮面ライダー』や『シン・ウルトラマン』の関連展示など、最新のクリエイティブワークの紹介も。最後は仮面ライダー、ゴジラ、ウルトラマン、三体の巨大フィギュアとぜひ一緒に記念撮影を!

「庵野秀明展」は10月1日から12月19日まで港区・六本木の国立新美術館で開催中。なお、入場は日時指定券による事前予約制になっているので、詳細は下記の展覧会HPにてご確認ください。
庵野秀明展
会場:国立新美術館・企画展示室1E
会期:10月1日(金)から12月19日(日)
休館日:毎週火曜日(但し11月23日は開館)
開館時間:10:00〜18:00(毎週金・土曜は〜20:00、入場は閉館の30分前まで)
その他の情報は下記URLより展覧会HPを参照。
https://www.annohideakiten.jp/

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