職人の手仕事に感動!『伝統工芸 青山スクエア』で見つけた日本の美

地下鉄の青山一丁目駅4番北出口より徒歩3分。渋谷から赤坂へ伸びる青山通り沿いに、全国各地の伝統的工芸品が集まる特別な場所があります。港区赤坂8丁目の「伝統工芸 青山スクエア」は、伝統的工芸品を展示・販売するギャラリー&ショップで、入店はもちろん無料。店内に一歩足を踏み入れると、“日本の美”の詰まった空間が広がります。まるで職人たちの情熱と歴史が凝縮されたミュージアムのようなこの施設を、店長の朝川和彦さんに案内してもらいました。

現在243品目ある伝統的工芸品の定義とは?

シックな趣きのエントランス

「伝統工芸 青山スクエア」は、一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会が運営しており、全国の優れた伝統的工芸品の魅力を発信するため、昭和54年(1979年)に前身の「全国伝統的工芸品センター」が誕生。平成24年(2012年)に現在の青山へと移転しました。青山は都会の中にありながらも、落ち着いた雰囲気のあるエリア。協会の常任理事でもある朝川さんは「文化的施設も多い青山が、日本の伝統的工芸品を伝えるには良いロケーションだろうという判断もあったのだと思います」と、移転の内情について明かします。

店長の朝川さんが手にしているのは、幾何学模様が美しい箱根寄木細工

店内では常設展のほか、特別展や匠コーナーなども開催。様々な伝統的工芸品に触れることができます。ちなみに、伝統的工芸品とは経済産業大臣の指定を受けた工芸品のこと。「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」で定義が定められており、「主として日常生活で使われるもの」「主要工程が手作りであること」「100年以上前から続いている技術・技法で作られたもの」「100年以上前から使われている原材料で作られている」「産地がある程度の規模を保っている」という要件を満たしている必要があります。朝川さんは「大事なのは、作り手が複数人いて、産業として成り立っていることなんです。したがってここに展示されている物の多くは将来的に価値が出る美術品などではなく、すべて普段使いできる日用品なんです」と説明します。

店内は約450平米の広さ

経済産業大臣が指定した伝統的工芸品は全国に243品目(令和6年10月時点)あり、「伝統工芸 青山スクエア」では約130品目、合計4,000点ほどを取り扱っているのだとか。

匠コーナーでは職人の技を間近で体感

多くの料理人に愛される大阪府堺市周辺で生産されている堺打刃物の包丁

匠コーナーでは、熟練の技を目の前で見ることができます。取材時(令和7年9月上旬)は、堺打刃物の研師・伊野英樹さんによる包丁研ぎの実演が行われていました。荒砥石から中砥石、そして仕上砥石と、砥石を使い分けながら包丁を研いでいきます。

職人は自分の爪に刃を置き、引っかかりで研げているかどうかを確認するのだそう

研ぎ終わったら、お客さんにもわかりやすいように新聞紙で試し切り。大事なのは、包丁の刃元から刃先まで満遍なく紙を通して、刃の全てが研げているのかを確認することだそうです。鋭い切れ味は、料理の味を左右します。

呉須(酸化コバルト)を主成分とする顔料で下絵付け

さらに、伊万里・有田焼の陶芸家である山﨑伸悟さんによる磁器の素焼き生地の下絵付けの実演も。繊細な匠の技に感動します。職人の中でも、経験と技術と知識を持つスペシャリストには「伝統工芸士」の称号が付与されます。現在、日本全国で約3,400名の伝統工芸士が活躍中なのだそう(令和6年2月時点)。「伝統工芸 青山スクエア」は、お客さんと職人の触れ合う場としても機能しています。「様々な制作実演や制作体験、ワークショップなどを年間70本ほど開催しておりますので、公式サイトをチェックしてみてください」(朝川さん)

涼しげなディスプレイが目を引く

常設展の手前では、年に9回行われる季節感を意識した期間限定の催事が開催。取材時には、江戸風鈴や豊岡杞柳細工のかご、いずみガラスの箸置きなどが展示されていました。もちろん、すべて購入することができます。

日本全国の伝統的工芸品がずらりと並ぶ常設展

系統や作者によってそれぞれ特徴がある宮城伝統こけし

常設展では、品目ごとに伝統的工芸品を展示・販売。宮城伝統こけしは、仙台市を筆頭に、大崎市(鳴子)や松島町など、宮城県の各地で作られています。

スパンコールの招き猫など、ラインナップが豊富な江戸木目込人形

木彫りの人形の溝に布地を挟み込んで作る江戸木目込人形は、バラエティ豊かで見ていて楽しくなります。海外のお客さんには、招き猫が人気。インバウンドの影響もあり、「伝統工芸 青山スクエア」は4割が海外からのお客さんなのだそうです。「自国の口コミサイトやホテルのコンシェルジュなどに案内されて来店されるケースが多いですね。大臣指定の伝統的工芸品を展示している施設ですので、そういった意味では安心して来ていただけているのかなと思います」(朝川さん)

江戸切子は天保5年(1834年)にビードロ屋を営んでいた加賀屋久兵衛という人物が、英国製のカットグラスを真似て作成したのが始まり

金属製の円盤や砥石などを使って、ガラスの表面に模様を切り出していく江戸切子も海外からのお客さんがよく購入していく一品。商品案内に英語を併記したり、購入したお客さんに英語の取扱説明書を渡したりと、海外のお客さんへの対応も万全です。「希望されれば贈答用の包装をしたり、熨斗(のし)をかけたりと、海外のお客様にも日本の伝統的なサービスを提供することを心がけています」(朝川さん)

丈夫で長持ちするのが南部鉄器の特徴

近年、特に中国からのお客さんに人気があるという南部鉄器の急須。17世紀初めに南部藩が京都から茶釜職人を招いたのが始まりで、現在は、岩手県の盛岡市と奥州市で作られています。

富山県の砺波市と南砺市で製作されている井波彫刻

店内でひときわ目立っていたのが、レジカウンター横に飾られていた恐竜の井波彫刻。山車の装飾に使われる鬼板と呼ばれるもので、幅約130cmの大きさ。これは、子どもも喜びそうです。「日本人のお客様は、シニア層とファミリー層が中心です。学校で伝統的工芸品の授業があったり、受験で関連する問題が出たりするようでして、学びの一環として親子連れで来店されるケースも増えています。夏休み期間中は絵付けや染め物など、様々なワークショップを開催しましたので、子どもたちでたいへん賑わいました」(朝川さん)

中央に置かれた桐エコスピーカーは電池や電源が不要

全国の桐箪笥の70%を占める加茂桐箪笥。その箪笥に使われる国産桐と特殊な技法で製作された、スマートフォン用桐エコスピーカーは、電池や電源を必要としないエコなスピーカー。実際にスマホを入れて試すことができます。こうした新しい商品も生み出しながら、伝統的工芸品の文化を後世に伝えていきます。

上品で雅な福井県鯖江市の越前漆器

デザイン性の高い越前漆器は、茶器やぐい呑といった本来の用途として使われるのはもちろん、海外のお客さんが部屋に飾るインテリアとして買っていくことも多いのだとか。

石川県輪島市で作られている輪島塗

輪島塗の椀や箸などは、普段使いにもぴったりです。朝川さんは「伝統的工芸品というと身構えてしまう人もいらっしゃると思うのですが、例えば、お椀などはいつも使っているお味噌汁を注ぐお椀の感覚で、気軽に見ていただければと思います。もちろんお値段のする物もありますが、修理に出せば一生使えますし、素材も天然もので、軽くて手によく馴染みます。実際に手に取っていただければ、その価値を理解していただけるのではないでしょうか」と話します。

阿波正藍しじら織の反物やネクタイなども販売

阿波正藍しじら織は、徳島県徳島市の織物。阿波地方で織られていた「たたえ織」という木綿縞を明治時代に改良した伝統的工芸品です。表面には細かな凹凸があり、着物などは肌に張り付かず、さらっとした着心地が特徴です。

和紙は、島根県の江津市と浜田市で生産されている石州和紙

巾着や小銭入れ、印鑑ケースや絵はがき用の和紙など、プレゼントにちょうどいい小物も充実しています。

料理がより美味しく感じられそうな伝統的工芸品の皿や茶碗

ただ伝統的工芸品を展示・販売するだけでなく、職人による実演やワークショップも定期的に開催している「伝統工芸 青山スクエア」。見て、触れて、そして感じて、直に伝統の技を堪能できるのが、この店の大きな魅力です。朝川さんのお話に耳を傾けながら店内を進んでいくと、これまで知らなかった工芸品の歴史や作り手の想いを知ることができました。「全国各地の伝統的工芸品を取り扱っている、日本では希少な専門店です。365日、毎日イベントを行っていますので、気軽に立ち寄ってください。そして、気に入った物がありましたら、ぜひ日常的に使ってください」と朝川さん。長く愛せる一品が見つかるかもしれない「伝統工芸 青山スクエア」に、足を運んでみてはいかがでしょうか。
《伝統工芸 青山スクエア》
所在地:東京都港区赤坂8-1-22 1F
営業時間:11:00~19:00
定休日:年中無休(年末年始を除く)
※その他、詳しくは下記の公式サイトをご確認ください。
https://kougeihin.jp/

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