口紅のお試しもOK!「紅ミュージアム」で紅の文化と真髄に触れる
文政8年に日本橋小舟町で創業した伊勢半本店は、日本に残る最後の紅屋(べにや)として、現在も伝統の紅づくりを行っています。紅とは、紅花(ベニバナ)の花びらから採取する希少な赤色色素のこと。そんな紅の文化を未来へと繋げていくために、伊勢半本店では資料館の紅ミュージアムを設立し、日本の紅と化粧の歴史を伝えています。海外からの観光客も増えているという紅ミュージアムで、紅の魅力に触れてきました。
紅の歴史と生産・流通の過程を辿る常設展示
紅ミュージアムへのアクセスは、表参道駅から歩いて12分ほど。渋谷駅や新橋駅から出ているバスに乗る場合は、「南青山七丁目」停留所で下車してください。紅ミュージアムは、入口の紅色の意匠が目印になっており、開館時間中であれば、誰でも無料で見学することができます。さっそく中に入ってみましょう。
館内は様々な資料が並ぶ常設展示と、口紅のお試しもできるコミュニケーションルームに分かれています。常設展示では、古(いにしえ)より染料や化粧に使われてきた紅の歴史や、原材料となる紅花の生産・流通の過程などを辿ることができます。
明治時代中期の伊勢半本店の模型も展示。伊勢半本店が創業した文政8年は西暦に換算すると1825年。なんと、再来年の2025年には創業200年を迎えます。歴史の重みがすごい! ちなみに、当時の紅屋は看板代わりに紅色の旗を掲げていたそう。浮世絵にも描かれているので、見つけてみてください。
紅花に含まれる赤色色素はわずか1%で、口紅「小町紅」を一つ作るのに、なんと約1000輪の紅花が必要なのだとか。原材料となる最上紅花の産地は山形県。ジブリ映画「おもひでぽろぽろ」に出てきた紅花畑での花摘みのシーンが、ふと思い浮かびました。展示では、ひとかたまりの「紅餅」に加工された紅花が、どのようなルートを辿って京都や大阪、江戸に運ばれていたのか、一目でわかります。
紅花から赤色色素を抽出するには、非常に多くの工程を辿りますが、その技は門外不出。非公開の技にも関わらず、代々職人さんだけが立ち入りを許された製造現場に特別に入って、なんと工程の一部を撮影してきたそうです。このVTRは、紅ミュージアムだけで見ることができちゃいます。
抽出された紅は、化粧はもちろん、魔除けにも使われていたのだとか。赤という色には、災厄を退ける力があると信じられていました。
常設展示室は、大まかに紅と化粧のエリアに分かれています。紅にまつわる歴史や製法を学んだら、いよいよお待ちかねの化粧のエリアへ。
古代から現代まで、化粧の歴史を紐解いていく
大昔から人々は化粧を施していましたが、当時は信仰や身分秩序を表す意味合いも強かったそうです。そして、江戸時代に入ってからは化粧文化が花開きます。展示では口紅の「赤の化粧」、白粉の「白の化粧」、そして、お歯黒の「黒の化粧」を紹介。江戸の人々はなぜ化粧をしたのか、どのような意味があったのか。貴重な資料から学ぶことができます。
江戸時代に女性たちが携帯していた紅を入れるための「紅板」や、懐中化粧道具入れは必見! 今の時代にも通じるデザインセンスで、とってもおしゃれ。思わず欲しくなってしまいます。ぜひ、じっくりと本物を見てください。
浮世絵や文献などから、当時の流行りを知ることもできます。江戸時代には、下唇に紅を重ねて、笹色に輝かせる化粧が流行したそうです。小粋!
文政10年(1827年) に刊行された「都風俗化粧伝」は、化粧の手順やポイントなどを解説した江戸時代の大ベストセラー。なんと発売されてから約100年に渡って売れ続けたのだとか。紅ミュージアムでは、この「都風俗化粧伝」をもとに、化粧の実演を行うイベントなども開催しているそうです。
西洋化によって日本人の美意識にも変化が生じはじめた幕末から明治・大正。そして昭和の初期から中期まで、化粧に関する時代の変遷を当時の広告や化粧瓶などと共に辿っていきます。驚くのは、明治時代・大正時代の化粧瓶の華やかさ。これは一見の価値ありです!
今に通じるリップスティックも。初期のものは、扁平な棒状で、成形技術の未熟さから、現在よりもずっとサイズが小さかったそうです。
常設展示室の一角では、テーマ展示も行われています。現在の展示「平成のギャルメイク-伊勢半コスメもみんなキラキラでピカピカだったころ」(2023年8月5日まで開催)は、2000年頃に流行したY2Kファッションをフィーチャー。当時は“ラメ”が流行っていました。ちなみに、テーマ展示は3~4ヵ月に一度、入れ替わるのだそう。
紅についてたっぷりと学べる常設展示室。実は、日本の化粧史を常設で展示しているのは、全国でも紅ミュージアムだけ。女性やカップルのほかに、歴史好きの人も訪れるのだとか。そして、続いてはコミュニケーションルームへ。
コミュニケーションルームの体験コーナーで紅を点(さ)す
ミュージアムショップやレストスペースがあるコミュニケーションルームでは、無料で紅のお試しづけも行えます。口紅の「小町紅」は、赤ではなく、玉虫色に光り輝いています。純度の高い良質な紅が、この色になるそうですが、その原理は解明されていないのだとか。使用する際は、紅筆に少量の水をつけて、少しずつ溶いていきます。玉虫色から赤色に変化する様子を確かめてみましょう。
肌の色や塗り方で発色が異なります。実は、紅ミュージアムの来館者の4人に1人は男性なのだそう。手に塗ってその発色を確かめることができるので、ぜひ男の人もチャレンジしてみてください!
紅ミュージアムでは、紅花から色素を抽出するミニ実験や、紅染めの布で花をつくるつまみ細工の体験教室なども開催。子どもたちの夏休みの自由研究にもちょうどいいかもしれません。他にも、様々なワークショップやイベントを定期的に企画しています。
また、ミュージアムショップでは、「小町紅」や、紅花紋様のめがねふき、浮世絵のポストカードなどのおみやげも充実。キュートなふせんやメモ帳、クリアファイルなども置いてあります。
紅について、たっぷりと学べる紅ミュージアム。簡単な質問であれば、常駐しているスタッフの方に訪ねることができますが、より詳しく知りたい場合は前もってガイドを予約することもできます。連絡先や開館時間、各種イベントなどの詳しい情報は、紅ミュージアムのホームページをチェックしてみてください。
古来多くの人を魅了してきた紅。興味がある人もない人も、悠久の歴史と伝統文化に触れることのできる紅ミュージアムに足を運んでみてはいかがでしょう。
《紅ミュージアム》
東京都港区南青山6-6-20 K's南青山ビル1F
https://www.isehanhonten.co.jp/museum/
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:日曜日・月曜日・創業記念日(7月7日)・年末年始
※混雑状況によっては、入場制限を行いご入館をお待ちいただく場合がございます。
古来多くの人を魅了してきた紅。興味がある人もない人も、悠久の歴史と伝統文化に触れることのできる紅ミュージアムに足を運んでみてはいかがでしょう。
《紅ミュージアム》
東京都港区南青山6-6-20 K's南青山ビル1F
https://www.isehanhonten.co.jp/museum/
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:日曜日・月曜日・創業記念日(7月7日)・年末年始
※混雑状況によっては、入場制限を行いご入館をお待ちいただく場合がございます。