歴史と伝統の芝百年会:芝大門と新橋の老舗が行った改革に迫る
港区の芝地区で事業を営む創業百年以上の老舗が集まり、「芝百年会」が創設されたのが2016年のこと。再開発によって街の様相も変化し続ける中で、芝百年会の老舗は地元に愛されながら、歴史と伝統を紡いできました。芝地区に礎を築き、代を重ねてきた老舗の店主たちが守ってきた伝承の技とは? そして、これまで取り組んできた改革とは? 今回は芝百年会の中から、芝大門と新橋の老舗飲食店をご紹介。店主の“言葉”を交えながら、その歴史と改革を紐解いていきました。
「芝大門 更科布屋」の“流行と不易”とは
寛政3年(1791年)に創業した233年もの歴史を誇る「芝大門 更科布屋」(芝大門1-15-8)は、もともとそば打ち上手として知られた信州の反物商・布屋萬吉が蕎麦屋に転向し、東日本橋の薬研堀に店を開いたのがはじまりでした。大正2年(1913年)には現在の地に移り、創業当時の味を今に伝えています。
7代目となる店主の金子栄一さんは、昭和56年(1981年)に先代から店を継ぎ、まず木造だった店舗をビルに建て替えました。金子さんは「私が店を継いだのは43年前ですが、当時はこの地区に宴会のできる広い店がなかったんです。芝大門はサラリーマンの多い街でもあるので、そうした宴会の需要に応えるためのビル化でした。最盛期は年間にすると合計千数百人の宴会を受けていました」と振り返ります。
近年はインバウンドによって、海外からのお客様も増えているのだとか。芝百年会の会長でもある金子さんは「増上寺や芝大神宮、そして東京タワーと、芝には歴史と文化がありますから、海外の方にとっても魅力的なエリアなのだと思います」と、地区の特性もあると指摘。「芝大門 更科布屋」でも、英語・フランス語・中国語・韓国語のメニューを用意して、訪日外国人客に対応しているそうです。
店内は老舗ならではの良い雰囲気で、おそばはもちろん、お酒を楽しむこともできます。「“蕎麦屋酒”という言葉がある通り、江戸時代から蕎麦屋は安価で飲める居酒屋として使われていました。そば味噌やそば豆腐など、様々な酒肴でお酒を飲みながら、江戸庶民の文化に触れてみてください」と金子さん。
「更科そば」は、そばの実の中心に近い芯の部分だけを使用した透き通るような純白のおそばで、ほんのりとした甘みと、なめらかなのどごしが特徴です。名物の一つでもある「変わり蕎麦」は、「更科そば」に四季折々の素材を練り込んだ逸品。5月は山椒、6月は紫蘇、7月は笹と、月ごとに異なる味が楽しめます。その「変わりそば」2種と、「更科そば」をセットにした「三色そば」も人気です。
そばを中心としたコースの会席料理は、予約が必要です。金子さんが店を継いだときにはじめた会席料理は、先代と一緒に内容を考えたのだとか。
「稚鮎天婦羅そば」は3月から6月までしか食べることのできない特別メニュー。金子さんは「9月には松茸そば、10月から2月はきのこそばなど、日本の四季に合わせたおそばをご用意しています。おそばで季節を感じていただきたいですね」と語ります。
創業230年の「芝大門 更科布屋」では、伝統を守りながら、会席料理や四季折々のおそばなど、新しいことにも取り組んでいました。金子さんは「流行と不易」のバランスが大事だと言います。不易とは「変えてはいけないもの」のこと。「うちの店にとっての不易は“おつゆの味”です。これだけは絶対に変えてはいけません。これを変えてしまうと、伝統も歴史も、それこそ屋号もなくなってしまう。お客様はうちのおつゆが好きで、来ていただいているわけですから。例えば、時代の変化に合わせてお醤油の味が変わったとしても、私たちは微調整をして、創業時のおつゆにする技術を持っています。お客様から言われて一番うれしいのは“美味しかった”ではなく、“昔の味とまったく変わらないね”という言葉なんです」と金子さん。江戸時代に花開いた食文化の一つでもある、おそばを食べて、その歴史に触れてみてはいかがでしょうか。
《芝大門 更科布屋》
東京都港区芝大門1-15-8
http://www.sarashina-nunoya.com/
営業時間:平日11:00~20:30(L.O20:00)、土曜11:00~19:30(L.O19:00)、日曜・祝日11:00~19:00(L.O18:30)
定休日:無休(年始年末の特別休業あり)
東京都港区芝大門1-15-8
http://www.sarashina-nunoya.com/
営業時間:平日11:00~20:30(L.O20:00)、土曜11:00~19:30(L.O19:00)、日曜・祝日11:00~19:00(L.O18:30)
定休日:無休(年始年末の特別休業あり)
「すき焼 今朝」の“決意とこだわり”とは
明治13年(1880年)に創業の「すき焼 今朝」(東新橋1-1-21)は、牛鍋屋としてその歴史をスタートさせました。大正時代には関西から“すき焼”が入ってきたことで、牛鍋からすき焼に看板を変え、昭和39年に建てられた今朝ビルの2階で、現在も営業を続けています。
平成19年(2007年)に先代の跡を継いだ5代目店主の藤森朗さんは「今朝の歴史を次の世代につなげることが私の一番の仕事だと思っています。次の時代に挑戦する心を忘れずに、すき焼という日本の伝統文化を継承していきたいですね」と決意を語ります。
店内にはテーブル席とお座敷があり、シックで落ち着いた雰囲気。新橋という場所柄もあり、接待などに使われることも多いのだそう。藤森さんは「還暦や退職などの特別な日にお使いいただくこともあります。ただ、ランチタイムは近隣の会社員の方たちが昼食に利用されますし、最近では海外からのお客様も増えていますね」と明かします。
長く営業しているだけあって、様々なお客様が来店されるそうです。藤森さんは「50年ほど前に上司にご馳走してもらったというご年配のお客様が部下の方とお見えになって、“ようやく自分もご馳走する立場になった”とおっしゃっていたことがありました。あとは、学生のときに当店を利用されていて、酔っ払って持ち帰ってしまったお猪口を数十年ぶりに返しにきたお客様もいらっしゃいました。ふとお猪口を見たら“今朝”と書いてあって、これは返さなければいけないと思ったそうです(笑)」と、お客様とのエピソードを話してくれました。
創業時の写真などは残っておらず、店内に掲げられているのは二代目の時代の写真。ただ、永井荷風や獅子文六、古川緑波や新田次郎といった文化人の作品には「今朝」のことが書かれており、当時の様子を伺い知ることができます。「永井荷風先生は『断腸亭日乗』の中で今朝について触れられています。朝起きて今朝でお昼を食べて、夜には花街に出かけていったそうです。新田次郎先生は私の祖父の従兄弟にあたるそうで、お会いしたことはないのですが、生前はよくいらしていたというのは聞いています」と藤森さん。
文豪も愛した今朝のすき焼は、霜降りの松阪牛を中心に、創業以来変わらぬ醤油ベースの割下と、厳選されたザク(野菜)を使用。藤森さんは「野菜は、最高級の千住ネギと、菌床栽培ではない厚みのある原木しいたけ、お豆腐は築地、しらたきは群馬から仕入れています。あとは春菊と、うちではタケノコも入れています」と、こだわりを語ってくれました。写真は松阪牛のロース肉を使用した看板メニューの一つ「すき焼 松」です。
お肉はスライサーではなく、板前さんが包丁で一枚一枚、丁寧に切り分けます。藤森さんは「スライサーで切るにはお肉を凍らせなければいけません。凍らせると戻したときにドリップが出てしまうので、うちでは職人が切っています。それに包丁で切るとスライサーで切るよりも、僅かなうねりが生じるので、割り下が染み込みやすいんです」と説明します。
ランチメニューの「すき焼定食」はリーズナブルなお値段ですき焼を楽しめます。仕事仲間や友人同士で来店し、仕事の成功や婚約などのお祝いに注文されることも多いのだとか。
お肉を玉子でとじた「すき焼丼」も人気です。他にもランチは「鉄板焼定食」や「鉄板焼定食」など、様々なメニューが用意されています。
店内には、藤森さんが額装を手掛けた絵や掛け軸などが飾られていました。写真はすき焼の具材にもなっているタケノコの絵です。
ソムリエの資格を持つ藤森さんは、その知識を活かして、すき焼とワインのペアリングも推奨しているのだそうです。お客様の要望があれば、料理に合うワインをおすすめしてくれるのだとか。「ワインリストもございますので、ご興味があればおすすめしています。すき焼はお肉と野菜と割り下が組み合わさっており、その複雑な味わいに合わせるとなると、角が取れて、酸も落ち着いたビンテージワインがいいかもしれません。ソムリエのいるすき焼屋はたぶん全国にもないと思いますので、歴史と伝統を守りながら、他ではできない体験をお客様に提供していきたいと思っています」と藤森さん。昔ながらのスタイルを貫きながら、新しい楽しみ方を模索する「今朝」のすき焼に、歴史と改革を感じました。
《すき焼 今朝》
東京都港区東新橋1-1-21 今朝ビル2階
https://sukiyaki.imaasa.com/
営業時間:ランチタイム11:30~14:30(L.O14:00)、ディナータイム17:30~21:00(L.O20:00)
定休日:土曜日・日曜日・祝日
東京都港区東新橋1-1-21 今朝ビル2階
https://sukiyaki.imaasa.com/
営業時間:ランチタイム11:30~14:30(L.O14:00)、ディナータイム17:30~21:00(L.O20:00)
定休日:土曜日・日曜日・祝日
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