歴史ロマン薫る建築&庭園を巡る 白金台散策特集
港区の中でもひときわ閑静な住宅地として知られる白金台(しろかねだい)。白金台という名前を知らなくても、この地区に住むご婦人たちを指す「シロガネーゼ」という言葉を知っている人は多いはず。高級住宅地として有名な白金台ですが、エレガントでセンスのいいショップが集まるほか、歴史建築を活かした文化施設も点在し、観光するにも楽しいエリアです。今月の特集はこの白金台を散策。お買い物に観光に、1日楽しめる白金のおすすめスポットを紹介します。
白金台の歴史と「プラチナ通り」
どこか縁起の良さそうな白金(しろかね)という地名は、この地を開拓した応永年間の豪族・柳下上総介(やぎしたかずさのすけ)が大量に銀(白金)を所有していたことから「白金長者」と呼ばれていたことに由来しています。高級住宅地として知られるようになるのは戦後になってからのこと。この頃から高層マンションが立ち始め、現在の白金台のイメージが形成されていきました。
東西を斜めに分つように目黒通りの下を都営地下鉄三田線と東京メトロ南北線が走り、エリアのほぼ中心に白金台駅があります。清楚な街だけに我々がよく知るお店の外観も“白金仕様”。そして白金台といえば、目黒通りと並ぶメインストリート「プラチナ通り」が有名です。
目黒通りと外苑西通りとを結ぶプラチナ通りは、イチョウ並木に沿っておしゃれなレストランやカフェ、ショップが立ち並ぶ洗練された目抜き通りです。散策の途中にランチタイムやカフェタイムを過ごしてみると、きっと束の間のセレブ気分に浸れるはず。
東京都庭園美術館 東西の建築美が融合した、近代の贅と高貴な薫りに満ちた空間
約1万坪もの庭園に囲まれた東京都庭園美術館は、白金台を象徴するスポットのひとつです。数ある都内の美術館の中でも、ここの特徴はアール・デコ様式の建築と芸術作品との競演を楽しめるところにあります。
現在の本館は、旧宮家である旧朝香宮(あさかのみや)の邸宅を改装した建物。久邇宮朝彦親王の第8王子で1906年(明治39年)に朝香宮家を創立した鳩彦王は、軍事研究のため1922年(大正11年)からフランスに渡り、その留学先で交通事故に遭ったこともあって同国で3年間を過ごしました。この頃のフランスはアール・デコの全盛期。20世紀初頭のアール・ヌーヴォーの時代に花開いたキュビスムなどの影響を受けた直線的な設計、幾何学模様が多用されたその建築の美しさに魅了された鳩彦王と允子妃は、1933年(昭和8年)に竣工した自邸にも最新のアール・デコ様式を取り入れたのです。
その後、戦後には外務大臣や総理大臣を歴任した吉田茂が土地と建物を借り上げ、1954年(昭和29年)まで公邸となり、さらに1955年(同30年)から1974年(同49年)までは国の迎賓館として多くの来賓を迎えました。そして1981年(同56年)に東京都の所有となり、元来の特徴を残したままの形で改装が行われ、1983年(同58年)から東京都庭園美術館として一般公開されています。
その後、戦後には外務大臣や総理大臣を歴任した吉田茂が土地と建物を借り上げ、1954年(昭和29年)まで公邸となり、さらに1955年(同30年)から1974年(同49年)までは国の迎賓館として多くの来賓を迎えました。そして1981年(同56年)に東京都の所有となり、元来の特徴を残したままの形で改装が行われ、1983年(同58年)から東京都庭園美術館として一般公開されています。
画家としても活躍したフランス人室内装飾家、アンリ・ラパンが主要な室内をデザインし、同じくフランス人のガラス工芸家、ルネ・ラリックらによる工芸品を随所に配置。意匠に合わせて部屋ごと異なる木材や壁の模様、そして石材やタイルの多彩なバラエティが当時最高峰の贅を感じさせます。本館・茶室・正門などの建築は、2015年(平27年)から国の重要文化財にも指定。往時のアール・デコ様式を今に留める建物はその全体に美術品のような価値があります。
ラリックが制作した翼を広げる女神像のガラスレリーフと天然石が敷き詰められた幾何学模様の床が印象的な正面玄関にはじまり、第一応接室、大広間など、随所にレトロなモダンさを感じさせる室内は見応え満点。次室(つぎのま)にある白磁の香水塔もラパンがデザインしたもので、美術館のロゴにもなっているシンボリックな存在です。
そして、ここから続く大客室と大食堂は美術館のハイライトといえる部屋。大客室は本館全体の中で最もアール・デコの粋が集められた部屋とされ、ラリック制作のシャンデリアや、ガラス工芸家、マックス・アングランのエッチング・ガラスをはめ込んだ扉など西洋の美が結集。もう一方の大食堂はラリックの照明器具《パイナップルとザクロ》など煌びやかな装飾に眼を奪われます。花々や魚介をモチーフとした幾何学模様の意匠に包まれて、きっと誰もが息を飲むはず。
ひとつひとつのポイントを取り上げていくとここでは語るに尽くせないのですが、照明器具ひとつを取ってもひとつひとつ工夫を凝らした意匠に感銘を覚えるはず。また、フランスに渡って西洋の建築技術を学び、本館全体の基本設計を担当した建築家・権藤要吉をはじめとした宮内省内匠寮の功績にも注目。館内のところどころには漆塗りの技や日本の伝統模様が活かされ、日本と西洋の美を見事に調和させた彼らの仕事が光っています。
本館および新館では近現代のアートや建築を中心とした多彩な企画展を開催。9月27日までは年に一度の建物公開展「建築をみる2020 東京モダン生活(ライフ) 東京都コレクションにみる1930年代」を開催中。本館では建物の歴史や技術を味わう展示が展開され、新館では東京都の所有する資料の中から1930年代の東京をフィーチャーした展示が見られます。もちろん四季それぞれの景観が楽しめる日本庭園や西洋庭園も見どころです。
なお、新型コロナウイルスの感染防止対策として、入館前の検温や入館人数の制限を実施中。来館者が安心して鑑賞ができるよう、細心の注意が図られています。
八芳園 あらゆる自然を集めて創造された、日本の美を堪能できる庭園
和の文化を感じさせる建築群と5万㎡の庭園を擁する八芳園。結婚式場や宴会場として都内屈指の知名度を誇るスポットは、料亭やレストランでの食事と併せて庭園散策も楽しめる風流な観光名所でもあります。
江戸時代の初期、この地には徳川家康の側近だった旗本・大久保彦左衛門の屋敷があったと伝わり、その後は松平家や島津家などの屋敷地となりました。そして明治時代の末期には、「日本資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一の従兄で同じく実業家だった渋沢喜作の屋敷が建てられました。
現在の八芳園の基礎ができたのは、1915年(大正4年)に久原財閥の総帥で「鉱山王」として知られた久原房之助の別荘になってからのこと。日立製作所などの創業者でもある久原は、周囲の土地も買い集めて敷地を1万2千坪に拡張。もとの地形や川などを活かしながら今につながる庭園が整備されたのです。
現在の八芳園の基礎ができたのは、1915年(大正4年)に久原財閥の総帥で「鉱山王」として知られた久原房之助の別荘になってからのこと。日立製作所などの創業者でもある久原は、周囲の土地も買い集めて敷地を1万2千坪に拡張。もとの地形や川などを活かしながら今につながる庭園が整備されたのです。
八芳園という名称も「四方八方どこをみても美しい」という久原の思いによるもの。元文年間建造の十三層塔や源氏に敗れた平家の供養のために立てられた弥陀六の灯籠、千年以上前に造られた古代朝鮮の仏塔など価値ある名品・逸品が集められ、園内の各所に配されたのです。その後、銀座などで料亭を営んでいた長谷敏司が1950年代に土地などを譲渡されて現在の八芳園の形に。今日まで常に憧れの結婚式場としてその名が挙がるスポットになっています。
自慢の庭園は、池や石庭、四季折々の自然と風情豊かな日本の美が結集された空間。ひときわ目立つ数寄屋造りの建物は久原の屋敷だった「壺中庵」で、現在は料亭として営業しています。樹齢二百年を超える古木も並ぶ盆栽も見ものです。
なお、新型コロナウイルスの感染防止に対しては「33の取り組み」をグループ全体で掲げ、細部にわたって対策を徹底。衛生管理や3密対策を細かく行い、安心・安全に最大限配慮した上でゲストを迎えています。
港区立郷土歴史館 太古から現代に至る港区の歴史を一挙に学べる新スポット
港区の複合施設「ゆかしの杜」内にある港区立郷土歴史館は、一昨年にオープンしたばかりの話題スポット。太古からの港区の歴史が一か所で学べる施設です。
周囲から異彩を放つゴシック調建築は、1938年(昭和13年)に建てられた旧公衆衛生院の建物を活用したもの。俯瞰するとコの字型を描く建築は、連続アーチが特徴的な中央エントランスをはじめとして、中央ホール、旧講堂、旧院長室・旧次長室などに旧来の姿を留め、近代日本の記憶を今に伝える貴重なスポットになっています。
常設展示は古代から近現代までの港区の自然・歴史・文化を3つのテーマで紹介しています。テーマⅠ「海とひとのダイナミズム」では、東京湾と関わりの深い港区の海と暮らしに関する遺物などを展示。漁具や土器のほか、壁一面に展示された伊皿子貝塚の貝層断面は見応え抜群です。
テーマⅡ「都市と文化のひろがり」では、主に江戸時代の港区の様子を紹介。江戸の玄関口として武家屋敷や寺社などが多く建てられた港区の様子を町割図や再現模型を通じて紐解いています。
テーマⅡ「都市と文化のひろがり」では、主に江戸時代の港区の様子を紹介。江戸の玄関口として武家屋敷や寺社などが多く建てられた港区の様子を町割図や再現模型を通じて紐解いています。
そしてテーマⅢ「ひとの移動とくらし」は、明治以降の近現代の歴史を国際化、教育、交通・運輸、生業・産業、災害・戦争という5つの視点を通じて紹介。デジタル機器も活かした体感型の展示で、港区の近代化の歴史がわかりやすく理解できます。
なお、9月22日までは、1964年(昭和39年)の東京オリンピックに向けて整備された交通インフラの歴史を振り返る特別展「1964年東京オリンピックと都市の交通」を開催中。また、同館でも新型コロナウイルスの感染防止対策として、館内でのマスク着用や手指消毒、ソーシャルディスタンスなどのご協力をお願いしています。
1階にはオーガニックや無添加にこだわったカフェ「VEGETABLE LIFE」を併設。八芳園プロデュースのこちらでは、無農薬・自然栽培の野菜、有機栽培の野菜を主役にしたグルテンフリー&無添加のグルメを提供。ビーガンの方にも対応しています。
日替わりの3種のデリとメイン料理が1種選べるベジボックスや、オーガニックコーヒー、オーガニックティーなど、すべてのメニューがイートインOK。野菜本来の味わいが存分に楽しめるグルメで夏の元気をチャージしてみてはいかがでしょう。