南青山にオープン!「化粧文化ギャラリー」で知る化粧の歴史と面白さ

化粧品メーカーの株式会社ポーラ・オルビスホールディングス(当時はポーラ化粧品本舗)は、化粧を学術的に研究することを目的として、1976年5月15日に「ポーラ文化研究所」を設立。以来、現在まで化粧文化に関する資料の収集や保存、調査研究、公開普及などを継続して行ってきました。そして、収集した資料や積み重ねてきた知見を紹介するための施設が港区南青山にオープン。2024年5月15日にポーラ文化研究所の新たな拠点として誕生した「化粧文化ギャラリー」では、展示や書籍で化粧文化を伝えると共に、ギャラリートークやワークショップなどのプログラムも実施しています。今回は、化粧文化ギャラリーのマネージャーを務める西原妙子さんと、ポーラ文化研究所の学芸員を務める渡辺美知代さんに、施設の特徴や取り組みなどを案内してもらいました。

化粧にまつわる書籍を読める「Books」エリア

化粧文化ギャラリーは、地下鉄の青山一丁目駅から徒歩2分、外苑前駅から徒歩5分のポーラ青山ビルディングの1階にあります。ロビーの右奥にある入口では、マリー・アントワネット風の貴婦人のパネルがお出迎え。開室日は毎週木曜日と金曜日ですが、木曜のみ予約制なのでご注意ください。施設内は「Art」と「Books」の2つのエリアで構成されており、「Books」エリアの大きな書架には、化粧にまつわる本が並んでいます。

西原さんいわく、1976年当時の設立されたばかりのポーラ文化研究所がまず行ったのは、数ある文献の中から、化粧にまつわるシーンや記述を抜き出してまとめることだったのだそうです。「化粧はどちらかと言えば即物的で表面的なものであるという世間のイメージが強かった時代に、当時の学芸員たちは化粧が人の営みの中に根ざした文化的なものであるという確信を持って、様々な文献の中から、化粧にまつわる部分を洗い出していきました」(西原さん)

鎌倉時代の宇治拾遺物語や江戸時代の古川柳などから抽出した一節は、化粧史の年表として本にまとめてあり、化粧文化ギャラリーでも読むことができます。

例えば、日本最古の歌集である「万葉集」の「令和」の出典となった「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫ず」という一節は、まさに化粧に関連する記述。梅は美女の鏡の前の白粉に、蘭は身を飾る衣に纏う香に例えられています。

ポーラ文化研究所では近代の化粧文化についてもまとめ、書籍として発行。「最初の書籍は年表としてさまざまな文献から抽出する形にしましたが、もう少し読み物としてわかりやすく化粧について知っていただくために、明治~昭和までの近現代、そして平成~令和に移り替わる30年についても(テイストは違いますが)書籍を発行しました。これらは、化粧文化の通史として読んでいただけます」(西原さん)

『平成美容開花』では、化粧に対する女性の意識の移り変わりなどもイラストを使ってわかりやすく説明。長年に渡る調査結果をデータとして掲載しています。ポーラ文化研究所では、本誌の制作に当たって、過去30年分の女性誌を読み解き、そこから化粧に関するワードを抽出して約1万件のデータベースを作成、それを企画編集の骨子にしていったとか。ちなみに、西原さんは『婦人画報』、渡辺さんは『nicola(ニコラ)』を担当されたそうです。大変すぎます!

ポーラ文化研究所では、1978年に美と文化の総合誌「is」を、1979年に研究誌「化粧文化」を創刊。それぞれのバックナンバーも「Books」エリアで自由に読むことができます。18世紀の貴重書なども含め、ポーラ文化研究所が収蔵している書籍は約1万冊。「学芸員に質問していただければ、お話やレクチャーなどをさせていただきますし、書架にない本でも声をかけてもらえれば、閉架からお持ちいたします」(西原さん)

その他、書架には女性誌やファッション誌のバックナンバーも。時代ごとの化粧や装いの移り変わりを見比べるのも楽しそうです。

貴重なアイテムを間近で見られる「Art」エリア

現在、化粧文化ギャラリーではオープニング企画として、「はじまりの美学」を開催中。「はじまり」をキーワードに3つのテーマから化粧文化を紹介。1期の「化粧文化研究のはじまり」(2024年5月16日~8月30日)に続いて、2期は「化粧のはじまり」(2024年9月5日~12月13日)、そして3期は「初化粧」(2024年12月19日~2025年3月28日)という構成です。期ごとに「Books」エリアの書架には関連した選書が並びます。企画を立案した学芸員の渡辺さんは「共通のテーマを掲げて、ギャラリーの魅力を発信していきたいという思いがありました。私たちの活動の再始動という意味もあり、“はじまり”をテーマにArt&Booksを展開しております」と説明します。

展示スペースである「Art」エリアでも、「はじまりの美学」に則した展示が行われています。「1期はポーラ文化研究所が設立された初期に収集した江戸時代の婚礼化粧道具をメインに据え、化粧や婚礼のシーンを描いた浮世絵と共に見ていただくことで、化粧道具の使い方を読み解いていただくようにしました。テーマが『化粧文化研究のはじまり』ですので、私たちが行っている研究活動のプロセスを追体験していただくのが狙いです。また2期は『化粧のはじまり』がテーマですので、江戸時代だけではない、多様なコレクションを見ていただきたく、“元始の化粧”まで遡り、紀元前のエジプトや古代ギリシャなどで使われていた化粧道具などをご紹介しています」(渡辺さん)

ポーラ文化研究所が収蔵しているアイテムは約6,500点。その中からテーマに合わせた展示物が公開されています。紀元前のエジプトで使われていた2色のコールを入れていたファイアンス製のコール壺や、ユニークな魚形の石製パレットなど、「化粧のはじまり」を知ることのできる貴重なアイテムを間近に見ることができます。

様々な展示物から、古代の化粧文化に思いを馳せることができるのではないでしょうか。「古代の化粧はその時代だけで完結しているわけではなく、当時の人々の美意識や化粧への思いなどは今の私たちにも通底しているところがありますので、ぜひ展示をご覧になって、実感していただければと思っています」(渡辺さん)

2024年12月19日からは、3期の「初化粧」がスタート。「江戸時代には一定の年齢に達すると眉を剃ったり、お歯黒を塗ったりといった通過儀礼と結びついた化粧がありましたし、髪型も未婚女性と既婚女性では異なりました。そうした人生の節目における初めての化粧について、取り上げたいと考えています」(渡辺さん)

化粧文化の面白さに触れる体験型のプログラム

化粧文化ギャラリーでは、Art&Booksの他にも、ギャラリートークやワークショップ、レファレンスなどのプログラムで化粧文化を紹介しています。そして、施設を訪れたら、ぜひ体験してほしいのが「BEAUTY TRIP(ビューティートリップ)」という最新のデジタル技術を活用した体験型アプリ。ポーラ文化研究所が開発したこのアプリは、観光地などにある“顔ハメパネル”の要領で、西洋の貴婦人や、江戸の花魁に御台所など、様々な時代のビューティーになることができちゃいます。まずはタブレットで好みの絵画をセレクト。筆者はエリザベス1世時代の貴婦人を選びました。

タブレットのカメラで顔を写し、微調整しながら位置を合わせたら、アプリ上で絵画そのままの、その時代の特徴的な化粧を施して完成です。チークやリップなどのポイントメークはもちろん、ベースメークの白粉の白さ、濃さも忠実に再現。明るさまで微調整できるので、まるで絵画の世界に入り込んだようなビジュアルに。手持ちのスマートフォンで画像を保存することもできるので、友達や仲間と盛り上がることができそうです!

「BEAUTY TRIP」をはじめとしたギャラリートークやワークショップ、レファレンスなどは予約制なので、ポーラ文化研究所の公式サイトで確認しましょう。学生や社会人はもちろん、研究者や著名人も訪れるという化粧文化ギャラリー。南青山にオープンしたことで、ふらっと訪れる利用者も増えているそうです。渡辺さんは「多くの人にとって化粧は馴染みのある行為だと思いますが、実はその中には深い化粧文化の世界が広がっています。ぜひギャラリーに来ていただき、見たり読んだり触れたりしていただくことで、化粧文化の楽しさや面白さに気づいていただければと思います」とメッセージを伝えます。

西原さんは「単純にきれいなものが好き、面白いものが見たいという人にもたくさん来ていただきたいですし、例えば港区の中学生の7割くらいが知っているような、遊びに行く場所の一つとして選んでいただけるようなギャラリーにしていきたいですね」と展望を語ります。化粧の文化的な側面に注目が集まる今こそ、老若男女問わず楽しめる化粧文化ギャラリーに足を運んでみてはいかがでしょうか。
《ポーラ文化研究所・化粧文化ギャラリー》
所在地:東京都港区南青山2-5-17ポーラ青山ビルディング1F ポーラ文化研究所内
開室日:毎週木・金曜日(祝日・年末年始の場合は閉室)※木曜日は予約制
開室時間:11:00~17:00(最終入室16:30)
入室料:無料
※詳しくは下記の公式サイトをご確認ください。
https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/gallery/

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