三康図書館は「図書館」の枠を飛び出した、歴史を「体感」できる場所!

図書館と聞くと、話題の書籍や雑誌をはじめ、豊富な資料がそろう場所を思い浮かべる人も少なくないはず。そんな図書館のイメージを良い意味で裏切ってくれるのが、東京タワーのふもとにある「三康図書館」です。
三康図書館に収蔵されているのは、戦前の大衆雑誌や児童書、旅行ガイド、浮世絵、そして江戸時代の巻物など、「図書館」という言葉には収まらないほど、貴重で興味深い資料ばかり。そしてなんと、蔵書の数々を、実際に手に取って閲覧することができるのです。

一見、無作為にも思えるテーマの蔵書が集まっている理由とは? 貴重な蔵書を、誰もが手に取れるようにして問題ないのか? など、三康図書館図書部の新屋朝貴さんにお話を伺いました。
東京タワーと増上寺の間、緑に囲まれた場所にあります
東京タワーと増上寺の間、緑に囲まれた場所にあります

新刊を買わない? 優先するのは、書籍や雑誌の保存と修復

三康図書館は1964(昭和39)年に発足し、1966(昭和41)年から一般公開を開始しました。1902(明治35)年に開館した旧大橋図書館の蔵書、約18万冊を受け継いでいます。博文館にゆかりのある旧大橋図書館は、東京市立図書館が無い時代から活動していた私立の図書館。専門書ではなく大衆向けの新刊書籍や雑誌をいち早くそろえ、一般の人に広く本を読んでもらうことを心掛けていた図書館です。

【博文館とは?】
明治時代、日本最大級の出版社。「太陽」「少年世界」「少女世界」「文芸倶楽部」「新青年」「野球界」など大衆向けの雑誌を発行し、田山花袋、江戸川乱歩、横溝正史など、数多くの作家を輩出した。

三康図書館が所蔵するのは、明治、大正、昭和戦前期の書籍や雑誌から、江戸時代の古典籍まで。
個性的な書体が使われていた、歴史ある書籍たち
個性的な書体が使われていた、歴史ある書籍たち
「よく『博文館の本だけを集めた図書館なんですか?』と聞かれることもありますが、他の出版社から出た書籍や雑誌まで広く所蔵しています。
それに、現在はほとんど新しい本は買っていないんです」

図書館なのに新刊を買わない? 早速、一般的な図書館との違いを感じさせる言葉が飛び出しました。

「以前は新しい書籍や研究書を買っていたのですが、現在は資料の保存・修復や古書の収集に力を入れ、予算をかけています。
図書館は、実際に手に触れて資料を使うことを想定した場所。だからこそ、保存や修復を重要視しているんです。ガラスケースに展示されているミュージアムとの大きな違いですし、図書館としての大切な役割です」
誰もが直接本のページをめくれるのが、図書館です
誰もが直接本のページをめくれるのが、図書館です
ただし、年月を経た書籍や雑誌は、経年劣化や閲覧によって傷んでいきます。でも、「図書館」だからこそ、来館者が直接手に取って、ページをめくることが大切。図書館として利用してもらうため、資料保存を最優先としている、ということです。

「紙は古くなると、酸化してパリパリと崩れてしまいます。そのため、古い雑誌には脱酸処理を施し、壊れた本は製本修理を行う。虫食いのある古典籍は、専門家に依頼して穴を埋めてもらうことで、当時の書籍や雑誌を現在でも利用できるようにしています」

印象的な1ページより、実際に多くのページをめくる体験を

愛おしそうな表情で資料を見る姿が印象的でした
愛おしそうな表情で資料を見る姿が印象的でした
2026(令和8)年3月末時点での三康図書館の蔵書数は、約26万冊(旧大橋図書館から引き継いだ資料は約18万冊)。雑誌は7,000タイトルを超えています。

雑誌で抜けてしまっている号があれば、職員が探し補完しているとのことですが、近年はコレクターや研究者からの寄贈も増えているそう。

「特定のページを開いて展示するのではなく、誰もが手に取って最初から最後まで読めるようにしてほしい。だから三康図書館に寄贈したい、とおっしゃる方もいます」

「現在は国立国会図書館でもデジタルアーカイブを公開していますが、実はデジタル化された書物は、現物を見られない場合もあるんですよ。だから、実物を見に三康図書館に来る方もいますね。実物を見て、『こんなに大きかったんだ!』と驚かれたり」と、新屋さん。
毎日新聞の前身「東京日日新聞」は、A3より一回り大きいサイズ!
毎日新聞の前身「東京日日新聞」は、A3より一回り大きいサイズ!
デジタルアーカイブは遠隔でも利用できて便利なシステムですが、やはり自分の目で見て、本物に触れることでしか得られない経験は代えがたいもの。サイズだけでなく、紙の質感や古い書物の匂いなど、デジタル画像では得られない体験ができるのが、三康図書館の大きな特長です。

戦時中に発行された「プーさん」をはじめ、お宝資料に出会える書庫見学会

書庫見学会は予約不要で参加可能
書庫見学会は予約不要で参加可能
三康図書館を訪れるべき理由の一つともいえるのが、三康図書館職員の案内で5つの書庫を巡る、「書庫見学会」です。

書庫見学会は、昭和初期に撮影された旧大橋図書館の写真の説明からスタート。続いて紹介してくれたのは、旧大橋図書館時代から現在の三康図書館でも使われている「カード目録」です。

「当時の図書館は、目録室というカード目録がずらっと並んだ部屋で読みたい本のカードを探し、本を持って来てもらうのが一般的だったんです」
いまも現役! 年季の入ったカード目録
いまも現役! 年季の入ったカード目録
「では、書庫に行きましょうか」と促され、いよいよ三康図書館の心臓部に足を踏み入れます。

温度や湿度が管理された書庫に入った瞬間に感じたのは、どこか懐かしい古書店のような匂い。本棚にぎっしりと並ぶ書籍はほこり除けの中性紙に覆われ、虫の生息状況を確認するバグトラップがあちこちに置かれています。これも、長く書籍や雑誌を保存するための工夫。

書庫では、保存の工夫や独自の分類方法、三康図書館ならではの収蔵書物について解説してくれました。さらに移動の合間にも、「あ、この本も面白いんですよ」と、足を止め、ユニークな資料を見せてくれます。
歩きながらも、思わず足を止めてしまう本がたくさん
歩きながらも、思わず足を止めてしまう本がたくさん
「ここは戦前の児童書のコーナー。実は戦前の児童書を所蔵している図書館って少ないんです。これは、戦時中の1942(昭和17)年に発行されたプーさんですね」
「プー横丁にたった家」挿絵もちゃんと入っていますよ
「プー横丁にたった家」挿絵もちゃんと入っていますよ
書庫にひしめく本棚を巡りながら、「このあたりは旧制中学校の入試問題集」「この『メンタルテスト問題』という本も面白い。戦前からメンタルテストという概念があったんだ、と驚く方もいらっしゃいます」など、次々に新屋さんが説明してくれます。耳にする解説がどれも興味深く、「へぇ~」「すごい!」と、自然と感嘆の声が出てしまいました。

「ここに住みたい!」と言う見学者も!? 書棚の間を進むたびに現れる貴重な資料

本好きでなくても、興味が尽きない書庫
本好きでなくても、興味が尽きない書庫
人ひとりが通れるほどの通路。その両脇に連なる貴重な本の背表紙には、凝った書体や装飾が施されている書籍も多く、当時、本がどれほど大切にされていたのかが伝わってきます。ドキドキしながら背表紙に触れてみると、「皆さん、最初は『本当に触って良いんですか?』とおっしゃるんですが、どうぞ手に取ってください」と、新屋さん。
一般的に図書館にない書籍があるのも、寄贈本が多いからです
一般的に図書館にない書籍があるのも、寄贈本が多いからです
「『三鷹事件』の控訴趣意書もあります。三鷹事件は、国鉄三大ミステリーといわれている無人列車暴走事件。本当は、裁判所に行かないと見られない資料です」

「旧皇族の竹田宮家がお持ちだった本もあります。以前は現在のグランドプリンスホテル高輪 貴賓館にあたる場所にお住まいだったのですが、後年、三康図書館に寄贈されたようですね」

利用者からの閲覧希望が多いという雑誌の棚には、「アサヒグラフ」「アサヒスポーツ」をはじめ、現在も刊行されている「文藝春秋」「婦人公論」「中央公論」などが並びます。それだけでなく、戦前の広告デザインが集められた雑誌も。
センスの高さをうかがえる広告が集められた書籍
センスの高さをうかがえる広告が集められた書籍
立派な学術書などは大切に保存されやすい一方、日常的に使われ、役目を終えると処分されてしまうなど、現存するものが少ない書物もあります。例えば、雑誌をはじめ、参考書や旅行ガイド、同人誌などです。
日本電信電話公社が発行していた2冊の同人誌も、寄贈されたもの
日本電信電話公社が発行していた2冊の同人誌も、寄贈されたもの
「日本電信電話公社(現在のNTTの前身)の文芸部や、機関車の運転手さんが所属する文芸部が発行していた同人誌もあります。祖父母が投稿した文学作品があるはず……と探し出して、ページの複写を希望された方もいるんですよ」

次々に紹介される書物の説明が強烈で、情報整理が追い付かないほど。
書棚に見入ってしまい、「まだまだ奥にもコレクションがあって……」と、先を促されたのも、一度ではありません。

その証拠に、60分が目安の書庫見学ですが、2時間近く書庫に滞在したり、「ここに住みたい!」と言う方もいらっしゃるとか。この空間に足を踏み入れると、いつまでも滞在したくなる気持ちが手に取るように分かります。
喜多川歌麿の美人画も、直接見せてもらえます
喜多川歌麿の美人画も、直接見せてもらえます

発禁本の歴史が分かる! 書庫内の展示も見逃せない

見学者に人気の、発禁本と閲覧禁止本の展示
見学者に人気の、発禁本と閲覧禁止本の展示
書庫内には、小さなスペースにまとめられた展示もあります。

例えば、「発禁本」や「閲覧禁止本」。

戦時中、秩序を乱すとされ、閲覧禁止となった図書もありました。旧大橋図書館では、発売禁止や閲覧禁止となった本とそのカード目録を隠し、「所蔵していない」と主張して本を守り抜いたというエピソードが残っています。他にも、カード目録に「閲覧禁止」「除籍」といった印を押しつつも、実際の書籍は別の場所に隠し、処分を免れた本も。
本を守り抜く、当時の図書館職員の思いに胸を打たれます
本を守り抜く、当時の図書館職員の思いに胸を打たれます
「発禁本というと、そもそも発売されず、全く読めなかったものを想像する人が多いですが、実際には一部を伏せた状態で流通していた本もかなりあります」

小林多喜二の「蟹工船」は、その代表格。

当時はどのような姿で人の手に渡っていたのか、実物を手にすることで、一気に現実味を感じました。新屋さんも「見学者の方からも、『百聞は一見にしかずとは、まさにこのことですね』と言っていただきます」と、大きくうなずきます。
伏せ字にされた状態で理解できるのか? 改めて読んでみるのも良いかも
伏せ字にされた状態で理解できるのか? 改めて読んでみるのも良いかも
その他、関東大震災関連の書物が集められたコーナーでは、こんな一幕が。

「以前、震災の被害の様子を描いた鳥瞰図(ちょうかんず)を見て、『あ、これ他のミュージアムで見ました!』と言う方がいらっしゃったんですが、こちらとしては、待ってました! 状態(笑)」と、笑う新屋さん。
震災の被害状況を描いた鳥瞰図
震災の被害状況を描いた鳥瞰図
「じゃあ、この鳥瞰図の裏側は何が描かれていると思いますか? と、聞くと、裏側はご存じないんです。ミュージアムでは、表しか見られないですからね。でも、三康図書館なら裏側も見られるんです」

鳥瞰図の裏側には何が描かれているのか? 是非、三康図書館で確認してみましょう。

三康図書館は、100年前の本がこの先も現役であり続ける場所

現在のミニ展示は「早慶野球戦」。期間は2026(令和8)年11月6日まで
現在のミニ展示は「早慶野球戦」。期間は2026(令和8)年11月6日まで
三康図書館のロビーでは、所蔵する書籍や雑誌を使ったミニ展示も企画しています。

テーマは2カ月ごとに異なり、例えば「昔話はむかしから同じ?」という企画では、誰もが知る桃太郎や浦島太郎などが、100年前の児童書にはどのように書かれていたかを比較。親子で来館し、当時の児童書を手に「今と違うね」と楽しんでいた方もいたそうです。

「閲覧室の座席は利用料が100円かかってしまうのですが、電源やフリーWi-Fiも完備しています。仕事などでも是非利用してほしいですね。
昔の本や雑誌も書庫から出して、手に取っていただけるように用意していますし、立ち読みであれば無料ですから(笑)」
近隣で働く人がお昼休みに訪れることもあるそう
近隣で働く人がお昼休みに訪れることもあるそう
三康図書館を訪れる人の目的はさまざまです。

昔の雑誌を楽しむのはもちろん、仕事のアイデアを探したり、戦中・戦後の満州や上海の地図からある建物を探したいと古地図と向き合ったり、「若い時のおばあちゃんのスナップが掲載されているらしい」とグラフ誌を確認したり……。

収蔵されている書籍や雑誌は、私たちが過去に触れるための橋渡しをしてくれる存在であり、新屋さんも「三康図書館を自分たちの代で途絶えさせたくない、という思いは強い」と言います。
取材時に展示されていた、旧ソビエトが世界に向けて発信した「ソビエトグラフ」
取材時に展示されていた、旧ソビエトが世界に向けて発信した「ソビエトグラフ」

必要なのは「興味」だけ! 遠慮せずに気になる資料を探してもらおう

古書を必要とするのはその道の専門家だけ、と思ってしまうかもしれませんが、「全く遠慮せずに来館してほしい」と、新屋さん。

「自分が知らない書籍や雑誌を探すのは、どうしてもハードルが高い。なので、『どんな本や雑誌を見たいか』を教えていただければ、こちらで当てはまるものを探すので、遠慮せずに伝えてほしいですね」

例えば、「先祖の生家を探したいから、昔の●●エリアの地図を見たい」「浮世絵が見たい」「戦前のこんな写真が載っている雑誌が見たい」など、私たちに必要なのは、興味の入口だけ。

その先は、書庫を知り尽くしたプロに案内してもらうことで、当時の空気感を感じられる書籍や雑誌に出会えます。
世界初の英語完訳「源氏物語」の第1巻
世界初の英語完訳「源氏物語」の第1巻
最後に、広い書庫を案内してくれた新屋さんに、どのエリアが一番好きか尋ねてみました。しばらく悩んだ末のお答えは、戦前の教育書や観光書、娯楽関係の書籍がそろう、第4書庫。

「辞典や教科書だけでなく、さまざまなジャンルの書籍がある場所。発禁本の展示も第4書庫ですね。バリエーションというか、多様性を感じられる書庫だと思っています」

古い書籍や雑誌をそろえ、保存するだけでなく、書庫見学に訪れた人から得た新しい情報を次の人たちにつないでくれる、三康図書館。「働いている人も来られるように」と、毎月第3日曜は開館日です。
通常の貸出は行っていませんが、著作権の範囲内に限りコピーも可能(有料)。
学生アルバイトさんによる手書きの壁新聞
学生アルバイトさんによる手書きの壁新聞
ささやかな疑問をインターネットで調べることは簡単ですが、実際に当時の書籍や大衆誌を手に取ることで、「実はこれも同じ時代だったんだ」「100年経っても変わってないんだな」など、当初の目的だけでなく、その周辺まで広く知ることができるのが、紙の本の良いところ。過去に触れることで、広がる世界もあります。

「昔ってどうだったんだろう?」を自分の目と手で確かめられる三康図書館に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
【三康図書館】
住所:東京都港区芝公園4-7-4 明照会館1階
アクセス:JR山手線・京浜東北線「浜松町駅」から徒歩15分、都営地下鉄大江戸線「赤羽橋駅」から徒歩5分、都営地下鉄三田線「御成門駅」「芝公園駅」からそれぞれ徒歩10分ほか
開館時間:月~金曜、第3日曜9:30~17:00(最終入館16:30)
休館日:土曜、第3日曜前の金曜、第1・2・4日曜、祝日
閲覧室 席の利用:100円(税込)
https://sanko-bunka-kenkyujo.or.jp/

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