お坊さんが詳しく解説!お寺の正しい参拝マナーを学ぼう

港区には、徳川家康公の菩提寺として知られる増上寺をはじめとして、様々なお寺が点在しています。その数、およそ280ヶ寺ほど。近年はインバウンドの影響もあり、国内外から多くの方がお寺を訪れるようになりました。そこで、参拝客に知っておいてもらいたいのが、参拝マナーです。今回は、仏教の教えを広く伝えてきた仏教伝道協会の職員であり、現役の僧侶でもある江田智昭さんに、参拝の正しい作法や港区のお寺などについてお聞きしました。

仏教は「おかげさまや感謝の精神」が貫かれている教え

――日本人にはとても馴染みの深い仏教ですが、正しくその精神や文化を理解している方は少ないかもしれません。まずは仏教の教えの基礎についてお教えください。

「“仏教”と一言で言っても非常にたくさんの教えがあるわけですが、一つ重要なものとして“縁起(えんぎ)”という教えを紹介させていただきます。私たちはよく『縁起が良い』、『縁起が悪い』などと言いますが、それは仏教の“縁起”とは少し意味が異なります。仏教の“縁起”は、『すべてのものはつながりの中で存在している』ということを意味します。つまり、人間も動物も植物もすべてがつながりあっていて、現在の自分はそれらに支えられてこの世界に生かされているのです。ですから、仏教は『すべてに対するおかげさまや感謝の精神が貫かれている教え』だと言えるかもしれません」

――おかげさまや感謝は、日本人が大切にしている精神の一つですね。

「そもそも、仏教の教えは6世紀ごろに日本に伝わったと言われていますが、それ以来、日本全国に多くの寺院が建立され、そこから仏教の教えが発信されるようになりました。そのため、日本人の思想・習慣・文化の隅々に仏教が入り込んでいます。例えば、茶道、華道、日本庭園、精進料理などには仏教精神の影響が色濃く見られます」
――仏教伝道協会ではそうした仏教の教えを伝えるために、どういった活動をされているのでしょうか。

「私が所属している仏教伝道協会は、内閣府認定の公益財団法人です。仏教には様々な宗派がありますが、伝道協会は特定の宗派にこだわらず、仏教の教えを広めようと1965年以来、港区を拠点に50年以上にわたって活動しております。活動内容は多岐にわたっておりまして、様々な宗派の僧侶や仏教学者の先生を招いて、講演会やイベント等を行ったり、仏教を学ぶ方に奨学金を出したりしています。また、年に1度、仏教精神と仏教文化の振興、発展に貢献された方を表彰する『仏教伝道文化賞』も開催しておりまして、過去には写真家の土門拳さんや作家の五木寛之さん、ここ最近では、仏像ブームを牽引されてきたみうらじゅんさんに賞を授与させていただきました。さらに、『仏教聖典』という書籍を世界中のホテルに寄贈したり、現在はインバウンド向けにお寺のお参りの仕方をまとめた小冊子“Guide to Buddhisum” なども発行しています」

――小冊子は英語版と中国語版の「簡体字」と「繁体字」、そして、日本語版もありますね。

「はい。全国の寺院に置かせていただいていて、希望する参拝客にお渡ししていますが、とても好評で、多くの方に手に取っていただいています。他にも、仏教伝道協会では、FM大阪で放送されている『笑い飯哲夫のサタデー★ナイト仏教』というラジオ番組のスポンサーをさせていただくなど、仏教の教えを伝えるための様々な活動を行っております。詳細に関しましては、ぜひ協会のホームページをご覧いただければと思います」

一礼や合掌からはじまるお寺の参拝の仕方

――それでは、お寺の参拝マナーについて、教えていただければと思います。

「まず、お寺の玄関である山門から入るときは、仏さまへの挨拶の意味もこめて、一礼もしくは合掌しましょう。続いて、境内に入ると手水舎(ちょうずや)のあるお寺があります。手水舎では右手で柄杓を持って、左手を清めた後は、柄杓を持ち替えて右手を清めます。最後に手のひらに水を溜めて口に含み、軽くすすいで口を清めたら、左手で口元を隠してそっと水を吐き出します。そして、本堂に入るときも、一礼もしくは合掌してください。仏さまにお参りするときは、できれば数珠を両手に掛けて合掌しましょう。合掌する際は神社と違い、手を打ったりしません。静かに手を合わせましょう。お参りが終わって本堂を出るとき、山門を出るときも、仏さまに向かって、一礼もしくは合掌しましょう」

――できれば数珠を持っていたほうがいいということですね。

「はい。数珠は礼拝するときに用いる仏具です。人間の百八の煩悩を取り除くという考えから、百八個の珠玉を連ねたものが基本ですが、タイプや掛け方は宗派によって異なります。仏さまにお参りするときは、できれば数珠をかけて合掌したいものです。例えば、御朱印をもらいに来られる方は、御朱印帳を持って来られますよね。同じように、参拝と数珠はセットで考えていただくといいかもしれません」
――お寺によっては手水舎がないところもあります。

「仏教も宗派によって形式が異なりますので、手水舎がないお寺もあります。また、御朱印やおみくじ、お守りなどのルールも異なります。お寺によってそれぞれの由来がありますので、こうすれば正しいというルールは存在しません。例えば、私は浄土真宗の僧侶なのですが、基本的に浄土真宗のお寺にはおみくじ、おまもり、御朱印が一切ありません。お寺によってはそれらのルールをホームページに記載しているところもありますので、事前にホームページを見て調べる、もしくはお寺の方に質問すると良いでしょう」

――最近では海外からの参拝者も増えているそうですね。海外の方に向けて、お伝えしておきたいことはありますでしょうか。

「海外の方々にもお寺で仏さまに手を合わせていただきたいと思いますが、同時に最低限のマナーを守ってほしいと思います。例えば、お寺では靴を脱いで本堂に入るところがあります。海外では靴を脱いで建物に入る習慣がほとんどないかもしれませんが、靴を脱いで本堂にお参りするお寺では、必ずそのルールに従いましょう。あと、写真撮影なども、大丈夫かどうかを確認することが大切です。また、お寺の中では、『帽子を脱ぐ』『サングラスをとる』『飲食をしない』などのマナーを必ず守るようにしてください」
――観光目的でお寺に立ち寄ってもいいものなのでしょうか。

「観光目的でお寺に入っても良いと思いますが、お寺は信仰の場でもあります。その空間を大切にしている方が大勢いることを忘れてはいけません。ですから、宗教空間の雰囲気を壊さないための配慮や、敬いの気持ちが大切だと私は思います」

訪れてみたい港区のお寺とドイツのお寺の話

――港区は特にお寺が多い印象です。増上寺はとても有名ですが、その他に、ここは知っておいてほしい、参拝におすすめというお寺をいくつかお教えください。

「港区には増上寺(浄土宗)以外にも歴史ある立派なお寺がたくさんあります。大善福寺(浄土真宗本願寺派)は港区で最も歴史のあるお寺であり、お寺の山号(麻布山)が麻布の地名の由来となっています。瑞聖寺(黄檗宗)は、大雄宝殿などが国の重要文化財に指定されています。また隣の庫裏は建築家の隈研吾さんが設計されたことで知られています。覚林寺(日蓮宗)は、戦国武将である加藤清正の位牌や像が祀られていることから『清正公(せいしょうこう)』とも呼ばれています」
――善福寺は元麻布、瑞聖寺と覚林寺は白金台にあるんですね。

「はい。他にも、泉岳寺(曹洞宗)は、忠臣蔵の赤穂義士のお墓があることで知られ、討ち入りがあった12月14日には今でも大勢の方がお参りに来られます。高野山東京別院(高野山真言宗)は、高野山真言宗総本山金剛峯寺の別院であり、写経や阿字観(瞑想)などの体験もできます。港区には他にも魅力的なお寺がたくさんあります。ぜひ、お参りに訪れていただければと思います」
――泉岳寺と高野山東京別院は高輪にあるお寺で、江田さんに今回お話をお伺いしているのは、虎ノ門にある光明寺というお寺です。光明寺はどういった特徴のあるお寺なのでしょうか。

「この光明寺(浄土真宗本願寺派)はオープンテラスがあり、東京タワーを見ながらゆっくりくつろぐことのできるお寺です。実は私の親戚のお寺でして、私もときどきお手伝いをさせていただいているんです」

――江田さんは、ドイツのお寺にいたこともあるとお伺いしました。

「私は北九州のお寺の次男で、浄土真宗本願寺派の僧侶です。2011年まで築地本願寺におりまして、2011年から2017年までの6年間は、ドイツのデュッセルドルフにある恵光寺というお寺でお勤めをしておりました」
――デュッセルドルフにお寺があることは知りませんでした。ヨーロッパの方たちは仏教をどう捉えているのでしょうか。

「デュッセルドルフには日本人街があり、日本の方も比較的多いんですね。その中にある恵光寺はヨーロッパ最大の日本仏教寺院と言われていて、ヨーロッパ中から観光客がたくさん訪れます。みなさん、仏教については宗教というより、座禅や瞑想といったイメージと紐づけているのが印象的でした。また、仏教を幸せに生きるための一種の実践哲学的のように捉える方が多いと同時に、仏教そのものに対しては好意的に感じている方がほとんどでした。実際に、恵光寺に参拝される多くの方が、敬いや尊重の心を持たれていたように思います」
――改めてになりますが、日本でもお寺をお参りする際は、そうした気持ちが大事ということですね。

「お寺の方はもちろんですが、毎日お寺にお参りされている方もいますので、その方々への気遣いを忘れず、仏様へのリスペクトの気持ちを持って、お参りいただければと思います。もし、参拝のマナーがわからないときは、失礼のないようにお寺の方に質問してみてください。一人でも多くの方がお参りすることを通して、仏教に触れていただければと思います」
《取材協力:梅上山光明寺(浄土真宗本願寺派)》
所在地:東京都港区虎ノ門3‐25‐1
https://www.komyo.net/

《取材協力:公益財団法人仏教伝道協会》
https://www.bdk.or.jp/

関連記事

港区の水辺を知る!午前8時のモーニングクルーズで朝活体験

2024年10月2日

港区では、芝浦運河や東京湾などの多彩な水辺の観光資源を活かすために、様々な取り組みを行っています。2024年9月13日と25日には取り組みの一つとして、朝8時に芝浦運河などを巡るモーニングクルーズが開催されました。そこで今回は、港区観光協会水辺部会の部会長でもある株式会社ジール・代表取締役の平野拓身さんに、クルーズや水辺の魅力、環境の移り変わりなどをインタビュー。晴天に恵まれた第1回モーニングクルーズの模様もお届けします! クルーズ企画の目的と水辺部会の活動内容 ――はじめに、港区として初の試みとなるモーニングクルーズの目的をお聞かせいただけないでしょうか。「港区の水辺を盛り上げ、賑わいを...

開業60周年はイベント盛りだくさん!港区と羽田空港をつなぐ東京モノレールの歩み

2024年10月9日

モノレール浜松町駅と羽田空港第2ターミナル駅までを結ぶ東京モノレール羽田空港線は、2024年9月に開業60周年を迎えました。1964年の東京オリンピックの開催前である同年9月17日に旅客営業を開始した東京モノレールは、現在に至るまでたくさんの乗客を運んできました。今回は、そんな歴史を重ねてきた東京モノレールのこれまでを振り返りながら、開業60周年を記念するイベントや企画などを紹介。東京モノレール株式会社の営業部長・辻󠄀内敏眞さんと営業部主査の山浦勝弘さんに、様々なお話をうかがいました。 60年間の歴史をプレイバック! ――東京モノレールは今年で60周年を迎えました。開業時の様子について、わか...

南青山にオープン!「化粧文化ギャラリー」で知る化粧の歴史と面白さ

2024年11月14日

化粧品メーカーの株式会社ポーラ・オルビスホールディングス(当時はポーラ化粧品本舗)は、化粧を学術的に研究することを目的として、1976年5月15日に「ポーラ文化研究所」を設立。以来、現在まで化粧文化に関する資料の収集や保存、調査研究、公開普及などを継続して行ってきました。そして、収集した資料や積み重ねてきた知見を紹介するための施設が港区南青山にオープン。2024年5月15日にポーラ文化研究所の新たな拠点として誕生した「化粧文化ギャラリー」では、展示や書籍で化粧文化を伝えると共に、ギャラリートークやワークショップなどのプログラムも実施しています。今回は、化粧文化ギャラリーのマネージャーを務める西...

“模型沼”にようこそ!タミヤの新拠点にワクワクが止まらない

2024年8月7日

プラモデルやRCカーにミニ四駆まで、様々な模型を取り扱う総合模型メーカーのタミヤが新橋・虎ノ門エリアに、直営施設の「TAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYO」をオープン。約6,000アイテムのタミヤ製品を取り揃えており、施設内にはカフェやイベントスペースも併設されています。「タミヤの今が、ここにある。」をコンセプトに、模型文化を世界に発信するタミヤのフラッグシップ拠点を訪れました。 フラッグシップ拠点が新装グランドオープン! 新橋4丁目の新虎安田ビル1階にある「TAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYO」は、かつて新虎通りと赤レンガ通りの交差点にあった「タミヤ...